
ロボット漫画なら今のところこれが一番なたくじです。
今回はそんな近未来SFマンガ『機動警察パトレイバー』の感想レビュー評価・考察を。
機動警察パトレイバーとは?
- ジャンル:近未来SF、ロボット
- 作者:ゆうきまさみ
- 掲載誌:小学館『週刊少年サンデー』
- 連載期間:1988年~1994年・全22巻で完結済み
- テレビアニメ:1989年~1990年・全47話、他OVA・劇場版・実写版あり
ハイパーテクノロジーの急速な発展とともに、あらゆる分野に進出した汎用人間型作業機械『レイバー』
しかしそれは、レイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出すことになった。
続発するレイバー犯罪に、警視庁は本庁警備部内に特殊車両二課を創設してこれに対抗した。
通称特車二課パトロールレイバー中隊『パトレイバー』の誕生である。
とまあ、マンガ序盤やアニメの最初に流れるこのナレーションにある通り、人型巨大ロボット『レイバー』がある世界を描いた近未来SF作品。
ちなみに機動警察パトレイバーは巨大ロボット漫画作品の中でコミックス売上歴代No.1の1900万部以上(電子版を除く)
電子版を含めたらもしかしたら2000万部を超えているかもしれません(電子書籍の売上はどの作品もあまり公開されていない)
また、人型サイズのロボットを含めても『鉄腕アトム』と『Dr.スランプ』の名作2作品に続く歴代3位となっています。
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1988年から10年後の未来を描いた作品
物語はレイバーと呼ばれる巨大ロボットが普及した近未来。
そのレイバーを取り締まる警察組織『通称:特車二課』の活躍を描いたものとなっています。
作品が始まった1988年から10年後の2000年前後が舞台(作中で時間経過する)となるため現在ではすでに近未来ではないですがw
とはいえ、この1980年代から考察した2000年前後の未来がなかなかにリアルで今読んでも面白い。
画像のロボットで細かい作業を行う時に使う手や足などの動作を真似る『モーション・トレーサー』や話題の人工知能(AI)など、作中で使われた技術が未来の現実で実用化されているものも多数。
さらに2018年現在ではロボットアニメでお馴染みな搭乗型ロボットも登場しつつあります。
また、アニメも含めたロボット作品全体の中でも珍しい現実のテクノロジーや社会を描いた内容、ヒット作どころか漫画界ではロボット作品自体が少ない(巨大ロボット漫画はさらに少ない)、そんな中での大ヒット作となるとそれだけで貴重な存在です。
ちなみに画像の女性が主人公の泉野明(いずみのあ)
男性がいる中で女性がパイロット(作中ではフォワードや操縦担当)で主人公というのもアニメも含めた巨大ロボット作品の中では珍しい。
よくあるロボットものとは一味違う内容
ロボット作品というと戦争ものやバトルものが多い中、本作はタイトルの通り警察もの。
ということで戦闘以外にも警察の職務を行うのが他の作品との大きな違い。
交通整理から警備、人命救助やビルの解体なんかの地味な作業を行う話がけっこう多い。
レイバーが配置されている特殊小隊とはいえこの辺は特別扱いなしですね。
さらに訓練や休憩、画像のような待機室での日常シーンもよく出てくるのもパトレイバーの特徴。
正直、待機室で隊員同士が話しているだけのシーンは子供の頃に見たときは面白さが分からず退屈だったのですよね~(難しい話はよく分からないし)
それよりもロボット出さんかいっ!といった感じで(笑)
この辺は大人になって再度見てから面白さが分かったシーン。
他のロボットものと比べるとこういった動きが少ない静のシーンに面白味があるのも魅力。
ちなみに特車二課の他に一課も存在しますが、二課と交代制で待機室も別なため南雲隊長以外はあまり登場しません。
もちろんロボットバトルも忘れてない
静のシーンで魅せる異色のロボット作品とはいえ、もちろんロボットものの醍醐味である動のロボットアクションも出てきます。
マンガはアニメよりも動きが伝えづらい。
ロボットアニメよりも漫画が圧倒的に少ないのはここが原因でしょうね。
そんな中、この静と動をうまく使い分けたのが機動警察パトレイバーがヒットした要因の一つじゃないかなと思います。
むしろ静を主体としたことで動であるロボットアクションがより映えたと感じます。
特に最大の敵となるグリフォン戦は毎回熱い。
画像のように二課のレイバー『イングラム』がボロボロになるほど戦闘を繰り広げることもあります。
ここ一番のバトルは他のロボット作品にも負けない。
特車二課が警察組織ということもあり、敵が現れてもいきなり攻撃したりはせずにまずは警告。
バトルも撃破ではなく捕まえるのが目的という点も他のロボット作品とは大きく違いますね(もちろん余裕がない時は別ですが)
また、画像のようにマンガ版ではレイバー同士の戦闘シーンも含めて遠方の描写が多く、全体を俯瞰して見やすいようになっているのも特徴。
ちなみにパトレイバーではよくある司令室や戦艦から指示を出すのではなく、隊長や他の隊員も指揮車(装甲車)やパトカーに乗って一緒に現場に行く形。
画像のキャラ:熊耳(くまがみ)がやっているように指示は近くから無線で出します。
なので、パトレイバーのロボットはフォワード(搭乗担当)とバックアップ(指揮担当)の二人一組が基本ですね。
SFによくある遠くにいるのになぜかリアルタイムで状況が分かり指示が出せるといった力技はなし。
この辺も2000年前後に実際に巨大ロボットを運用したらこんな風になりそうというリアル感があります。
漫画が原作じゃないアニメ版
- 放送期間:1989年~1990年・全47話、他OVAと劇場版が複数
- アニメーション制作:サンライズ
- スタッフ:吉永尚之、押井守、伊藤和典、出渕裕、河森正治、カトキハジメ、ゆうきまさみ、高田明美
- キャスト:冨永みーな、古川登志夫、大林隆介、井上瑤、榊原良子
- 原作:メディアミックス
機動警察パトレイバーはメディアミックス作品(作品の一覧は下のメディアミックスの項に記載しています)
なので、マンガは原作ではなくあくまでゆうきまさみ版。
DVDやブルーレイなどで原作と書かれている『ヘッドギア』は本作のために編成されたゆうきまさみ(原案)・出渕裕(メカニックデザイン)・高田明美(キャラクターデザイン)・伊藤和典(脚本)・押井守(監督)からなるグループのことを指します。
マンガ版もアニメ版も基本設定は同じで登場キャラクターや登場メカもほとんど同じ。
ただし、物語は一部リンクしますが別物のパラレルワールド的な扱いとなっています。
なかでも一番の大きな違いは上の画像の香貫花(かぬか)・クランシーの扱い。
マンガ版では捜査のために出張してきた刑事として終盤に少し登場するだけ。
それがアニメ版ではニューヨーク市警察から研修のため半年 特車二課に配属され、序盤から二号機のバックアップとして登場します。
漫画と違い、ニューヨークに帰国するまで主要人物の一人として活躍するのが大きな違いですね。
逆に先程登場した熊耳がマンガ版では2巻から登場するのにアニメでは旧OVA版では登場なし、テレビ版では香貫花が帰国する中盤まで出てこないと、アニメと漫画ではこの二人の扱いが大きく違います。
また、マンガ版とアニメ版ではそれぞれで作品全体の雰囲気が違うのもパトレイバーの特徴。
漫画版が各キャラクターの心理描写や成長の描写に力を入れているのに対し、アニメ版ではエンターテイメント性に力を入れています。
特にOVA版とテレビアニメ版はコメディ回が多いのも特徴。
ただし、押井守監督色が強い劇場版はまた別物。
特に劇場版2作目と3作目はかなりシリアスな展開で内容も社会性が非常に強い。
特車二課やレイバーの出番もかなり少なく、キャラの見た目も画像のようにけっこう違います。
逆に劇場版1作目は特車二課やレイバーも多く笑いありとトータル的にこれが一番好きという人も多い作品ですね。
機動警察パトレイバーの独自評価・考察
一時代を築いた異色のロボット漫画&アニメ。
コミックス売上やアニメ版のグッズ売上といった商業面はもちろん、他のロボットものとは一線を画した内容やメディアミックスの形を作ったという点でも歴史的な作品ですね。
1980年代から予想された10年後の未来
未来を予想したSF作品は多いですが、すぐに答えが分かる10年後という近未来を舞台にした作品は当時はかなり珍しい部類(今でもそこまで多くはない)
で、パトレイバーでは1980年代から10年後、2000年前後を予想して描いているのですが、作中で使われたテクノロジーが実際に実用化されているものも多いのがすごいところ。
画像の海中レイバーなどは無人で外部から操作する形ですが現実でも海中探査ロボットとして実用化されています。
また、終盤で登場する新型パトレイバーは衛星を使って自分や相手の位置を把握し操縦をアシストしてくれる仕様。
これなんかも自動運転車に使われている技術ですからね。
実用化された時代は多少ずれていますが、こういった時代考察が楽しめるのもこの作品の魅力の一つです。
少年誌掲載とは思えない政治的・社会的なテーマも
漫画版『機動警察パトレイバー』が連載されていたのは週刊少年サンデー。
少年誌の中でもジャンプと並んで少年向けな雑誌でありながら、パトレイバーでは上記のようなセリフが飛び出すような現実ともリンクする重い社会問題も出て来る。
さらに政治的な問題もよく絡んできます。
頭が固い上の連中に悩まされる現場というパターンですね。
現場がこう動きたくても上が邪魔で自由に動けない。
そのために事件とは別にこっちの政治的闘争も行わればいけない。
しかも、これは味方だけでなく敵側も行なっているというのも面白い。
社会的・政治的な内容を描いているロボットアニメは他にもありますが、ここまで濃く、そして時間を使って描いている作品はかなり珍しい。
ちなみに特車二課の政治的交渉を行うのは画像の後藤隊長。
普段は飄々としていて冴えない中年って感じですが、これが実は元エリート(公安出身)でしかもキレ者。
やる気がなそそうに見えて、随所でキラリと光る行動や名言などを残す存在。
特に劇場版ではその格好良さが増してますね。
また、アニメ化もされた2014年~2018年に連載された恋愛漫画『恋は雨上がりのように』に登場する画像の近藤店長と容姿が似ていることでも少し話題となりコラボも行われました(笑)
容姿だけでなく年齢も同じ中年で冴えないようで実は元エリート(近藤店長は早稲田出身)で随所に光るものを見せるところも同じ。
ただ、近藤店長は後藤隊長をモデルにしたわけでなくここはたまたまのようです。
メディアミックス大成功&そういった作品の先駆け
- 1988年~1994年:漫画版
- 1988年~1989年:旧OVAシリーズ アーリーデイズ
- 1989年:劇場版第1作 the Movie(旧OVAの延長)
- 1989年~1990年:テレビアニメ ON TELEVISION
- 1988年~1992年:NEW OVAシリーズ(TVシリーズの延長)
- 1993年:劇場版第2作 the Movie2(2002年のパトレイバーの世界を描いた完結編)
- 2002年:劇場版第3作 WXIII(漫画版の廃棄物13号編がモチーフ)、完全コメディの『ミニパト』も同時上映
- 2014年年~2015年:実写劇場版シリーズ THE NEXT GENERATION パトレイバー(監督はアニメと同じく押井守)
- 2016年:オムニバス短編 REBOOT(かってのキャラは登場しない10分程度の作品)
パトレイバーの作品を時系列でまとめるとこんな感じ(他にも小説やゲームなどもあります)
1988年の当時としては珍しいメディアミックスで大成功。
これだけ息が長いロングヒット作品となっています。
また、テレビアニメ⇒OVAの順で展開されることは当時もありましたが、OVA⇒テレビアニメと展開したのはパトレイバーが初。
同じロボット作品である『ガンダムシリーズ』や『マクロスシリーズ』もロングヒットしていますが、マンガ版も爆発的に売れたパトレイバーの方がメディアミックスとしての成功度は上ですね(プラモデルなどの売上は負けていますが)
今なお続くメディアミックス作品の先駆け的存在です。
初めてだったらまずは漫画版から、気に入ったら旧OVA・劇場版第1作・テレビ・新OVA・その他の劇場版(第2作が完結編なので最後に観るのを推奨)と基本的には時系列に見ていくのがおすすめ。
機動警察パトレイバーのひとこと感想まとめ
機動警察パトレイバーは歴代屈指のロボット漫画。
さらにOVA・テレビ・劇場版と一度ハマれば二度三度楽しめる作品。