
この作品は少年マンガ業界にも風穴を開けたなと思うすやまたくじです。
今回はそんな漫画では珍しいファッション業界を描いた『ランウェイで笑って』の感想レビュー評価・考察を。
この記事で分かる目次
ランウェイで笑ってとは?
- ジャンル:ファッション、モデル、デザイナー
- 作者:猪ノ谷言葉
- 掲載誌:講談社『週刊少年マガジン』
- 連載期間:2017年~
これは才能に恵まれない藤戸千雪がトップモデルに至るまでの物語、そして環境に恵まれない都村育人がトップデザイナーに至るまでの物語。
千雪の夢はパリコレ(パリ・コレクション)にモデルとして出ること。
子供の頃からモデルと活躍し、小4で158cmと顔もスタイルも◎
目標とする175cmも達成できると自他共に思っていたが、そこから1cmも伸びることなく高校3年生を迎えた。
クラスメイトとなったデザイナーを夢見る育人との出会いがくすぶっていた千雪の人生を変える。
才能が原因でトップモデルの夢を阻まれる少女:藤戸千雪(ふじとちゆき)
ハイパーモデルは…ミネルージュ(パパの事務所)でパリで活躍するモデルのことです。
わたし諦めないよ
パパがモデル事務所を立ち上げたこと
雫さんのステージ(パリコレ)を見たことわたしの人生全部があの場所に行きたいって叫ぶの
…だから…わかる?
藤戸千雪(わたし)じゃいられないんだよ
諦めちゃったら
パリコレに出演し、パリで活躍するトップモデルを夢見る少女:藤戸千雪。
性格は男っぽいですが、顔もスタイルも良く、普通に男性からはモテるタイプ。
なので、タレントやアイドルであれば十分に需要はありそう。
が、身長も求められるファッションモデルでは話は別。
夢のためには努力も惜しまない千雪ですが、モデル業界の中では低身長の158cmという才能の無さが大きな足かせとなっています。
ちなみに日本では低身長の人気モデルも多いですが、あれはファッション雑誌やブランドによってコンセプトが違うから(小さい可愛い子向けならモデルも小さくてOKみたいに)
そういったのを抜きにしてモデルに欲しい最低基準が165cm、さらに千雪が目指すパリコレに出るハイブランドの場合は170cm以上とも言われています。
頭は小さい足だって長い。
身体のバランスはなかなか美しくて精神はタフ
父親はモデル事務所の社長でお金も人脈(コネ)も十分すぎるほど…あったでも、絶対的に必要なひとつを持ってない
他全部を捨ててでも“身長(それ)”が欲しい…
…せめてあと7cm…
これが現在のファッション業界における千雪の評価。
環境が原因でデザイナーの夢を諦めている都村育人(つむらいくと)
服は人を変えられる
だから作ってるんです
勇気が根気が負けん気が湧いてくる服を
子供の頃から服を作るのが好きでファッションデザイナーに憧れる都村育人。
見た目は女の子みたいですが男ですね(作中で間違えられたこともある)
好きなだけでなく、服を見ただけでその服のパターン(作り方)をほぼ正確にイメージできる才能を持つ。
が、母子家庭で家が貧しく、さらに母親が過労で長期入院中。
また、自分一人であれば奨学金を利用してデザイン系の学校に行くという手もありますが、妹が3人いてその妹達に人生の選択肢を与えてあげたい。
そういった思いから自分は夢をあきらめて進学せずに普通の会社に就職しようと考えています。
環境に恵まれているけど身長という才能がない千雪とは逆に、才能はあるけど環境に恵まれていないもう一人の主要人物。
(お金がないなら奨学金を利用してデザイン系の学校に行かないのかと聞かれて)
僕 妹が3人いるんですものすごく頭のいい妹にバレーが上手で人気者な妹、末っ子は年が離れてるせいかかわいくって
(お金が原因で色々と断っている妹達のために)色々選べるようにしてあげたい
全部
全部 今年僕が就職できたら解決するんです
二人の出会いが化学反応を起こす
目指したいものがあっても生まれ持ったモノがそれを許してくれない。
そんな二人が出会ったことで化学反応が起こる。
身長が足りない千雪にはそれを感じさせない魅力ある服を育人が作る。
環境が足りない育人には千雪の人脈(コネ)を使う。
それぞれがそれぞれの足りない所を補うことで届かなかった場所に手を伸ばす。
ファッション業界という男も女も関係なく戦う舞台で時には励まし合う戦友として、
時には競い合うライバルとして。
華やかな舞台でありながら、スポーツ漫画のような熱い友情や努力が描かれているのが『ランウェイで笑って』という作品です。
ランウェイで笑っての独自評価・考察
特徴を一言でまとめるなら、
ファッション業界の表側をスポーツ漫画のように熱く、そして裏側は社会マンガのように赤裸々に描いている。
まずは表面の仕事部分について。
華やかなファッションショーの裏側などは僕もテレビに出ているモデルの話を聞いて知ってました。
男のスタッフがいてもお構いなしで裸になるなどはけっこう有名な話ですね。
ここはプロの現場だから裸がモデルの衣装だって全員が知ってるんだよ
それについて千雪がしっかりと解説してくれます。
それでも自分が働いていると考えると意識しちゃいそうですが毎日見ていると慣れてくるのか、もしくは単純に忙しくてそれどころじゃないのでしょうね。
あと、意外だったのはモデルの仕事の取り方。
モデルは基本自分で仕事を取らないといけないらしく、宣材写真(書類審査の時に送るもの)も自分で用意してその費用も全部自分持ちらしいです。
交通費もスタジオもカメラマンも衣装代も全部自分で払う。
この辺はてっきりマネージャーが手配してくれて、費用の方も事務所が持ってくれると思っていました(大手事務所や期待のモデルとかなら待遇は違うかもしれませんが)
僕も芸人をやった経験がありますが、その時とほぼ待遇は同じですね。
むしろ芸人は複数の人数を一括で撮るので格安にしてもらえる&私服でOKだった分、宣材写真についてはモデルよりも芸人の方が安く済むぐらい。
育人よりも千雪の方が好きなのでモデル側ばかり注目してしまいますが(笑)
もちろん、育人側のデザイナー業界の仕事についてもちゃんと描かれています。
その中で一番『おおー!』となったのが合同展示会。
前々から服ってどうやって売り込んでどうやって店に仕入れてもらっているんだろうと思っていましたが、その一つの疑問が解けました。
バイヤーや業界人を相手にして展示会なんてものがあったのですね。
ここではデザイナーやそのスタッフがデパートの売り場のように接客し、自分達の商品を売り込んでいきます。
そこで気に入ってもらえたらその場で購入、または仕入れるといった流れですね。
ランウェイで笑ってではこういった普段は見えづらいモデルやデザイナーの仕事が描かれています。
そして、さらに見えづらいファッション業界の裏側についても。
ここが変だよ!ファッションデザイナー業界
ファッションデザイナーは実力の世界。
自分でブランドを立ち上げる人はもちろん、会社に所属する人であっても会社員というよりは個人個人で勝負する職人に近い感じ。
そしてファッションデザイナーになるために特に必須な資格はない。
なのに、ファッションデザイナーになるためには大卒かデザイン系の専門学校を出ているのが普通。
これっておかしいと思いません?
漫画家や芸能人などのその他の業界のクリエイティブな職業やスポーツ業界だって高卒やそれ以前にプロとして働いている人も多い。
実力世界の業界ならわざわざ学校に通わなくても現場で育てればいいと思うのですが。
これだと育人のように資金的に余裕がない人はデザイナーを目指すのは厳しいですしね。
せっかくの若い才能をそういった理由で潰してしまうのはもったいない。
そして、育人が出会ったデザイナーの横柄な態度。
スタッフに厳しい言葉や暴言を吐くのは当たり前、無理なスケジュールで睡眠時間を削らせて働かせ、時には画像のような態度や行動で威圧してくる。
それが嫌なら辞めろと。
もう完全にパワハラです。
もちろん、全てのデザイナーがこうではないでしょうし漫画的な演出もあるのでしょうが、最近の色々な業界の裏側を見るとこういったブラックな部分もあるのかなとは感じます。
特に職人の世界は厳しく育てるのが当たり前といった昭和的な旧態依然のやり方が強く残っている印象がありますし。
上に一方的に「辞めろ」って言われたら…僕らみたいな実力もない下っ端が誠意を見せられる方法なんて ほとんどないんですよ
育人のこのセリフにあるように、立場が強い人の言動や態度は暴力にもなる。
自分では厳しくやっているつもりがパワハラになっていることは多い。
そして、激しい言葉や暴力でしか伝えられないのなら、それは自分に指導力がないと言っているようなもの。
ファッション業界に限らず、パワハラやブラックはもはや時代遅れのここが変だよ!です。
ここが変だよ!モデル業界
デザイナー業界以上に変だと思ったのがモデル業界。
別に身長が低くてもよくない?
と僕なんかは思ってしまいますが、業界以外の一般人ならこう思う人も多いのではないでしょうか。
そもそも日本人女性で170cm以上はもちろん、165cm以上もそんなにいませんし。
服を売るためにアピールするならせめて平均身長に合わせるべきじゃないと思うのですが。
千雪はパリコレを目指していますが、外国人女性でも平均身長は170cmありません(ちなみにフランス人は160cmちょっと)
服をキレイに見せるのが理由らしいですが、実際に着る人に合わせてキレイに見せないと意味ないじゃんと思うのですが。
また、モデル業界でも上の画像のように何人も横柄な態度な人物が出てくる。
仕事に呼んでおいて身長が低いからと失礼な言葉で文句を言って帰らせようとする。
お前ら何様だ!
と言いたい。
呼んでおいてお金も払わず、さらに失礼な態度を取るなんて普通の会社同士のビジネスなら大問題ですからね。
これに関しては、業界は違いますが僕も芸人時代に何度か千雪のように悔しい思いをしました。
なんで人は権力を持つと勘違いして横柄な態度を取る人が多いのでしょうね。
地位があるからって別に偉くもなければ仮に偉いとしても周りに失礼な態度を取っていい理由にはならないのに。
デザインを含め、業界全体のこの思い上がりと古い体質を変えようとしない変化の遅さがファッション業界全体の不調に繋がっているというのに。
とはいえ、ネットやSNSの普及によってもはや昔のように悪いことは隠せない時代になってきた。
今はこういった古い業界の転換期といえる時期なのでしょうね。
夢を阻まれた二人がファッション業界に風穴を開ける!
そんなファッション業界の古い体質のせいで一度は夢を阻まれた二人がタッグを組んで業界に風穴を開けていく。
低身長でもモデルとして通用することを
そして低身長な人が着ても魅力的な服を作ることで証明して。
ちなみにランウェイでは笑ってはいけない。
これも服を美しく見せるためにモデルよりも服を目立たせるために。
それならもうマネキンでいいじゃんと思いますよね。
そう言いつつ、モデルはスタイルだけでなく顔がカワイイ人ばかりですし。
服って普通は着る人とセットで見るものなので、その人が魅力的に見えるなら笑顔だってアリでしょうと思います。
二人でファッション業界を駆け上がっていくだけでなく、こういった一般人から見たおかしな慣習や常識を二人でどんどん破っていって欲しいですね。
昔からある王道的な展開もいいですが、せっかく実際に今は時代が変わっている最中なのだからそれに合わせた展開も欲しいですね。
古い大人が作った手垢まみれのパリコレなどで結果を残すだけでなく、自分達のパリコレを作るぐらいの感じで。
今はネットやSNS、クラウドファンディングなどの新しいテクノロジーや仕組みが出てきて、それが十分可能な時代なのだから。
ランウェイで笑ってのひとこと感想まとめ
ランウェイで笑ってはモデルやデザイナーの下剋上とファッション業界の表と裏が描かれている作品。